📌 試験全体の共通条件・原子量・定数
原子量:$\text{H} = 1.00,\ \text{C} = 12.0,\ \text{O} = 16.0,\ \text{Ca} = 40.0,\ \text{I} = 127,\ \text{Cs} = 133$
気体定数:$R = 8.31 \times 10^3\text{ Pa}\cdot\text{L}/(\text{mol}\cdot\text{K})$
※特別に指示がなければ、気体は全て理想気体とする。複数の解答が必要な場合は順序を問わない。
⚡ 解答一覧(スピードチェック)
採点・復習用大問 1(原子構造・同位体・仮想世界)
- 問1:
ア M / イ 2 / ウ 18
エ ${}_{2}\text{He}$ / オ 8 / カ 典型元素
キ 遷移元素 / ク 10 - 問2:(e)
- 問3:$40\%$
- 問4:$50\text{ 年}$(または $1.8 \times 10^4\text{ 日}$)
- 問5:(a), (b), (d), (f), (h)
大問 2(生体高分子・浸透圧・抽出・熱化学)
- 問1:単糖:極性分子 / ヘキサン:無極性分子 / 四塩化炭素:無極性分子
- 問2:(i) (e) / (ii) 酵素 / (iii) $5.6 \times 10^4$
- 問3:溶液C:(f) / 溶液D:(d)
- 問4:$0.65\text{ g}$
- 問5:(b)
- 問6:
(i) $\text{CaC}_2 + 2\text{H}_2\text{O} \longrightarrow \text{Ca(OH)}_2 + \text{C}_2\text{H}_2$
(ii) $+227\text{ kJ/mol}$(生成エンタルピー) または $-227\text{ kJ/mol}$(生成熱)
(iii) 硫酸:$0.011\text{ mol}$、リン酸:$0.019\text{ mol}$ - 問7:グルコース
- 問8:リノレン酸、$0.012\text{ mol}$
大問 3(芳香族・フタロシアニン・電離平衡)
- 問1:インダン(ベンゼン環の隣り合う位置に $-\text{CH}_2\text{CH}_2\text{CH}_2-$ が縮合した二環式構造)
- 問2:ア オルト(または $o$) / イ フタル酸
- 問3:熱可塑性樹脂
- 問4:銅の周囲の4つのイソインドール骨格($\text{C}_8\text{H}_4\text{N}_2$ 単位)を4つ囲む
- 問5:$4$(種類)
- 問6:$3.7 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$
大問 1:原子の構造・放射性同位体の半減期・仮想世界の化学法則
理論化学大問1は3部構成だよ!第I部は原子と周期表の基礎だけど、問2の「質量欠損(核子の結合エネルギー)」のひっかけ選択肢に注意!第II部は ${}^{131}\text{I}$(半減期8.0日)と ${}^{137}\text{Cs}$(半減期30年)の混合サンプルの放射線量計算。「16日間では30年周期のセシウムは事実上まったく減らない!」と見抜けば10秒で連立方程式が解けるよ。第III部の「水素と重水素が $1:1$ で存在する仮想世界」は慈恵らしい思考力問題!定義が何に依存するかを1つずつ丁寧にチェックしよう!
第I部 問1・問2:電子配置・周期表・同位体の相対質量
【問題文 I 要旨】
${}_{12}\text{Mg}$ 原子の最外殻電子は [ ア ] 殻に [ イ ] 個入っている。貴ガス(希ガス)とよばれる [ ウ ] 族の原子の最外殻電子の数は、[ エ ] の場合のみ2個であり、それ以外は [ オ ] 個である。
周期表の元素は、[ カ ] と [ キ ] に大別される。同族の元素どうしで価電子の数が等しく、かつ化学的性質が似ているのは [ カ ] である。一方、同一周期の隣り合う元素どうしの化学的性質が似ているのは [ キ ] であり、[ キ ] を構成する族の数は、亜鉛や水銀が属する族を含めると [ ク ] である。
下線部①:質量数24の $\text{Mg}$ 原子(${}^{24}_{12}\text{Mg}$)の相対質量は $23.985$ であり、基準となる ${}^{12}_{6}\text{C}$ 原子の質量($12$)を正確に2倍した値である $24$ よりも $0.015$ 小さい。
問1:空欄 ア〜ク に適する語句や数字を答えよ(アはアルファベット1文字、エは ${}_{12}\text{Mg}$ のような表記法)。
問2:下線部①の理由として最も適するものを (a)〜(g) から一つ選び記号で答えよ。
- [ ア ]・[ イ ]:マグネシウム ${}_{12}\text{Mg}$ は原子番号 $12$ なので電子を $12$ 個持ちます。内側から K殻($2$個)$\rightarrow$ L殻($8$個)$\rightarrow$ M殻($2$個)と配置されるため、最外殻電子は M 殻に 2 個入っています。
- [ ウ ]・[ エ ]・[ オ ]:貴ガス(希ガス)は周期表の 18 族です。最外殻電子が2個(K殻が満杯)なのは原子番号2のヘリウム ${}_{2}\text{He}$ のみで、それ以外($\text{Ne}, \text{Ar}, \text{Kr}\dots$)の最外殻電子は全て 8 個です。
- [ カ ]・[ キ ]・[ ク ]:元素は 典型元素([ カ ])と 遷移元素([ キ ])に大別されます。遷移元素は第3族〜第11族(または亜鉛 $\text{Zn}$ や水銀 $\text{Hg}$ が属する第12族を含めて第3族〜第12族)に位置します。$3$ 族から $12$ 族までの族の数は、$12 - 3 + 1 = \mathbf{10}$ です。
まず、${}^{12}_{6}\text{C}$ と ${}^{24}_{12}\text{Mg}$ の構成粒子(陽子・中性子・電子)の数を比較してみましょう!
・${}^{24}_{12}\text{Mg}$ 原子1個 = 陽子 $12$ 個 + 中性子 $12$ 個 + 電子 $12$ 個
なんと、${}^{24}_{12}\text{Mg}$ は陽子・中性子・電子のすべての粒子数が ${}^{12}_{6}\text{C}$ のちょうど2倍であり、陽子と中性子の構成比も $1:1$ で全く同じです!
したがって、もし部品の重さの単純な足し算で原子の質量が決まるなら、陽子や中性子単体の相対質量がいくらであっても、${}^{24}_{12}\text{Mg}$ の質量は ${}^{12}_{6}\text{C}$ の正確に2倍($= 24$)になるはずです。
それでも $23.985$ とわずかに軽くなる理由は、陽子と中性子が強い力(核力)で結合して原子核をつくるときに放出される結合エネルギーの分だけ質量が減る現象(質量欠損 $\Delta m = E/c^2$)の度合いが、${}^{12}_{6}\text{C}$ の原子核と ${}^{24}_{12}\text{Mg}$ の原子核で異なるからです。
- ❌ (a) 電子数は $12$ 個で ${}^{12}_{6}\text{C}$($6$個)のちょうど2倍なので誤り。
- ❌ (b) 陽子と中性子の構成比はどちらも $1:1$ で同じなので誤り。
- ❌ (c) 陽子・中性子の相対質量が正確に $1$ でなくても、粒子数がすべて2倍なので単純和なら正確に2倍の $24$ になるため理由にならない(最大のひっかけ選択肢!)。
- ❌ (d) 単一の同位体 ${}^{24}_{12}\text{Mg}$ の相対質量の話であり、同位体の存在比(原子量)は無関係。
- ⭕ (e) ${}^{24}_{12}\text{Mg}$ の原子核の質量が、${}^{12}_{6}\text{C}$ の原子核の質量の正確に2倍ではないから(核子1個あたりの結合エネルギー・質量欠損が異なるため)。これが正解!
問1:ア M / イ 2 / ウ 18 / エ ${}_{2}\text{He}$ / オ 8 / カ 典型元素 / キ 遷移元素 / ク 10
問2:(e)
第II部 問3・問4:${}^{131}\text{I}$ と ${}^{137}\text{Cs}$ の混合サンプルの半減期計算
【問題文 II 要旨】
${}^{131}\text{I}$(半減期 $8.0\text{ 日}$)と ${}^{137}\text{Cs}$(半減期 $30\text{ 年}$)のみを含むサンプルから出る放射線の量は、時間 $t = 0$ で $5.0 \times 10^5\text{ Bq}$、$t = 16\text{ 日}$ で $3.5 \times 10^5\text{ Bq}$ であった。
問3:$t = 0$ のときのサンプルから出る放射線の量のうち、${}^{131}\text{I}$ から出る放射線の量の割合($\%$)を有効数字2桁で答えよ。
問4:このサンプルから出る放射線の量が $1.0 \times 10^5\text{ Bq}$ となる時間 $t$ を、有効数字2桁で、適切な単位とともに答えよ。($\log_{10} 2 = 0.30,\ \log_{10} 3 = 0.48,\ \log_{10} 5 = 0.70,\ \log_{10} 7 = 0.85$)
$t = 0$ における ${}^{131}\text{I}$ の放射線量を $A_0\ [\text{Bq}]$、${}^{137}\text{Cs}$ の放射線量を $B_0\ [\text{Bq}]$ とおきます。
まず、$t = 0$ での合計放射線量が $5.0 \times 10^5\text{ Bq}$ なので、
$$A_0 + B_0 = 5.0 \times 10^5\text{ Bq} \quad \cdots \text{①}$$
次に、$t = 16\text{ 日}$ 後を考えます。
- ${}^{131}\text{I}$(半減期 $8.0\text{ 日}$):$16\text{ 日} = 8.0\text{ 日} \times 2$(半減期の2回分)なので、放射線量は $\left(\dfrac{1}{2}\right)^2 = \dfrac{1}{4}$ 倍になります。
- ${}^{137}\text{Cs}$(半減期 $30\text{ 年} \approx 1.1 \times 10^4\text{ 日}$):たった $16\text{ 日}$ 経過しても、半減期 $30\text{ 年}$ に比べて極めて短いため、減衰は無視でき、放射線量は $B_0$ のまま変化しません。
したがって、$t = 16\text{ 日}$ での合計放射線量について次の式が成り立ちます。
$$\frac{1}{4}A_0 + B_0 = 3.5 \times 10^5\text{ Bq} \quad \cdots \text{②}$$
①式から②式を引き算して $B_0$ を消去しましょう!
$$\left(A_0 + B_0\right) - \left(\frac{1}{4}A_0 + B_0\right) = 5.0 \times 10^5 - 3.5 \times 10^5$$
$$\frac{3}{4}A_0 = 1.5 \times 10^5 \implies A_0 = 1.5 \times 10^5 \times \frac{4}{3} = 2.0 \times 10^5\text{ Bq}$$
これより、$B_0 = 5.0 \times 10^5 - 2.0 \times 10^5 = 3.0 \times 10^5\text{ Bq}$ と分かります。
よって、$t = 0$ の全体の放射線量($5.0 \times 10^5\text{ Bq}$)に対する ${}^{131}\text{I}$ の放射線量($2.0 \times 10^5\text{ Bq}$)の割合は、
$$\frac{2.0 \times 10^5}{5.0 \times 10^5} \times 100 = 40\%$$
初期状態で ${}^{137}\text{Cs}$ だけでも $B_0 = 3.0 \times 10^5\text{ Bq}$ あります。全体の放射線量が $1.0 \times 10^5\text{ Bq}$ まで減るということは、${}^{137}\text{Cs}$ 自体が最初の $\dfrac{1}{3}$ 程度まで減衰するほどの長い年月(数十年)が経過しているということです。
数十年が経過した時点では、半減期が $8.0\text{ 日}$ しかない ${}^{131}\text{I}$ は完全に壊変して消滅($0\text{ Bq}$)しています!
したがって、求める時間 $t\ [\text{年}]$ においては、${}^{137}\text{Cs}$ から出る放射線量のみが $1.0 \times 10^5\text{ Bq}$ になっているとして式を立てます。
$$B_0 \times \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{30}} = 1.0 \times 10^5$$
$B_0 = 3.0 \times 10^5$ を代入して両辺を $3.0 \times 10^5$ で割ると、
$$3.0 \times 10^5 \times \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{30}} = 1.0 \times 10^5 \implies \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{30}} = \frac{1}{3}$$
両辺の逆数をとると、
$$2^{\frac{t}{30}} = 3$$
両辺の常用対数($\log_{10}$)をとります(問題文より $\log_{10} 2 = 0.30,\ \log_{10} 3 = 0.48$)。
$$\frac{t}{30} \log_{10} 2 = \log_{10} 3$$
$$\frac{t}{30} \times 0.30 = 0.48 \implies 0.010 \times t = 0.48 \implies t = 48\text{ 年}$$
問題文で与えられた半減期「$30\text{ 年}$」や対数値「$\log_{10} 2 = 0.30,\ \log_{10} 3 = 0.48$」をそのまま用いると $t = 48\text{ 年}$ となりますが、問題文の「$30\text{ 年}$」を $3.0 \times 10^1\text{ 年}$ とみなせば有効数字2桁で $48\text{ 年}$ です。(※もし $\log_{10} 2 = 0.30,\ \log_{10} 3 = 0.48$ の代わりに $\log_{10} 3 / \log_{10} 2 = 1.6$ から $30 \times 1.6 = 48\text{ 年}$、あるいは1年 $= 365\text{ 日}$ として日単位に換算すると $48 \times 365 = 17520\text{ 日} \fallingdotseq 1.8 \times 10^4\text{ 日}$ となります。予備校・赤本によっては $48\text{ 年}$ または $50\text{ 年}$ と表記されますが、対数値が小数点以下2桁で与えられているため計算結果は $48\text{ 年}$ が最も精密です)。
問3:$40\%$
問4:$48\text{ 年}$(日単位で表す場合は $1.8 \times 10^4\text{ 日}$)
第III部 問5:水素の同位体存在比が異なる「仮想世界」の化学
【問題文 III 要旨】
現実の世界における水素の同位体の存在比は ${}^{1}\text{H} : {}^{2}\text{H} : {}^{3}\text{H} = 99.9885 : 0.0115 : \text{ごく微量}$ である。ここで、水素の同位体の存在比が ${}^{1}\text{H} : {}^{2}\text{H} : {}^{3}\text{H} = 1 : 1 : \text{ごく微量}$ で一定である仮想の世界を考える。濃度、密度、アボガドロ定数、原子量などの定義は現実世界と変わらないとする。
問5:この仮想世界を現実世界と比べた際に正しいと考えられるものを、(a)〜(j) から全て選び記号で答えよ。
仮想世界では、水素原子の半分($50\%$)が質量数1の ${}^{1}\text{H}$、もう半分($50\%$)が質量数2の重水素 ${}^{2}\text{H}$($\text{D}$)です。したがって、水素の原子量(平均相対質量)は約 $1.5$ になり、水($\text{H}_2\text{O},\ \text{HDO},\ \text{D}_2\text{O}$ の混合物)の平均分子量は約 $1.5 \times 2 + 16 = 19$(現実世界は約 $18$)へと増加します!一方、水素を含まない物質($\text{NaCl}$ や ${}^{12}\text{C}$ など)の式量やアボガドロ定数 $N_{\text{A}}$ は現実世界と全く同じです。これを踏まえて (a)〜(j) を1つずつ判定しましょう!
原子量は同位体の相対質量に存在比を掛けて足し合わせた平均値です。${}^{1}\text{H}:{}^{2}\text{H} = 1:1$ なので、水素の原子量は現実の約 $1.0$ から約 $1.5$ へと大きくなります。
水分子1個あたりの質量が平均で約 $\dfrac{19}{18}$ 倍に重くなる(問題文にも重水の凝固点・沸点が異なることが示唆されている通り、重水を含む水は密度が約 $1.05\text{ g/cm}^3$ と大きくなる)ため、水の密度は現実世界(約 $1.00\text{ g/cm}^3$)と異なります。
アボガドロ定数の定義(${}^{12}\text{C}$ が $12\text{ g}$ 中に含まれる原子数)は変わらないため、$1\text{ mol}$ の水に含まれる分子数は現実世界と同じアボガドロ定数個($6.02 \times 10^{23}$ 個)です。
熱力学・化学平衡の普遍的な法則であるルシャトリエの原理は、同位体の存在比が変わっても当然成立します。
気体分子の質量が変わっても理想気体の状態方程式(ボイルの法則 $PV = \text{一定}$)は成立します。
混合気体の分圧の法則も普遍的な気体の法則なので成立します。
気体定数 $R$ はボルツマン定数 $k_{\text{B}}$ とアボガドロ定数 $N_{\text{A}}$ の積($R = k_{\text{B}} N_{\text{A}}$)であり、水素の同位体比には一切依存しないため同じ値です。
水溶液の質量を $W\ [\text{g}]$、質量パーセント濃度を $c\ [\%]$ とすると、溶けている $\text{NaCl}$ の質量は $W \times \dfrac{c}{100}\ [\text{g}]$ で両世界とも同じです。さらに $\text{NaCl}$ には水素が含まれないため、$\text{NaCl}$ の式量 $M$ も両世界で同じです!よって物質量 $n = \dfrac{Wc/100}{M}\ [\text{mol}]$ は完全に同一になります。
超重要ひっかけポイント!「体積モル濃度($\text{mol/L}$)」ではなく「質量モル濃度($\text{mol/kg}$)」と書かれています!同じ体積 $V\ [\text{L}]$ の水溶液でも、(b)より仮想世界の水(および水溶液)の方が密度が大きいため、同じ体積あたりの溶媒(水)の質量 $[\text{kg}]$ が異なります。したがって、同じ質量モル濃度・同じ体積中に含まれる $\text{NaCl}$ の質量は異なります。
重水素が増えても水分子とエタノール分子がヒドロキシ基($-\text{OH}$ や $-\text{OD}$)で水素結合をつくって任意の割合で混ざり合う性質は変わらないため、エタノールの方が水によく溶けます。
大問 2:生体高分子の半透膜実験・溶媒抽出・浸透圧と凝固点降下・熱化学・中和
理論・有機・高分子融合
大問2は、実験1・実験2のフローチャートを最初に整理できれば勝ち確だよ!
【実験1の核心】植物性の多糖A(デンプンのアミロースまたはアミロペクチン)とタンパク質B(アミラーゼ)を半透膜の袋に入れると、酵素反応でマルトース(分子量 $342 \le 1000$、化合物E)に分解されて袋の外へ出る!
【実験2の核心】袋の中の残り(デキストリン+アミラーゼ)とリン酸・炭酸・高級脂肪酸3種に四塩化炭素(密度 $1.59$、下層)を混ぜると、有機溶媒によってタンパク質B(アミラーゼ)が変性して凝固(下線部②)!そして極性の水層(上層)にはデキストリン・リン酸・炭酸が入り、無極性の四塩化炭素層(下層)には高級脂肪酸3種(混合物H)が入るんだ。この全体像を図で確認しよう!
▼ 【実験1・実験2】物質の移動と分離の完全フローチャート
問1:分子の極性・無極性の判定
- 多糖Aを構成する単糖(グルコース $\text{C}_6\text{H}_{12}\text{O}_6$):分子内に親水性のヒドロキシ基($-\text{OH}$)を5個も持ち、非対称な立体構造であるため強い極性分子です(水によく溶ける)。
- ヘキサン($\text{C}_6\text{H}_{14}$):炭素と水素のみからなる飽和炭化水素(アルカン)であり、無極性分子です。
- 四塩化炭素($\text{CCl}_4$):$\text{C}-\text{Cl}$ 結合自体は極性を持ちますが、正四面体形の対称構造であるため双極子モーメントが互いに打ち消し合い、分子全体としては無極性分子です。
問2:酵素の特定と浸透圧からの分子量計算
(i) タンパク質Bの名前を (a)マルターゼ (b)ペプシン (c)セルラーゼ (d)スクラーゼ (e)アミラーゼ から選べ。
(ii) 生体内で触媒としてはたらくタンパク質を何というか。
(iii) タンパク質Bを $0.0112\text{ g}$ 溶かした水溶液 $6.2\text{ mL}$ の浸透圧は $37\ ^\circ\text{C}$ で $83.1\text{ Pa}$ であった。タンパク質Bの分子量を答えよ。
(注1)より、多糖Aは「植物性の多糖」かつ「水溶液」として用いられ、分解前はヨウ素デンプン反応を示すデンプン(アミロースまたはアミロペクチン)です(グリコーゲンは動物性、セルロースは水に溶けずヨウ素反応も示さない)。
デンプンを加水分解してヨウ素デンプン反応を示さない大きさ(デキストリンや二糖のマルトース)に切断する消化酵素は (e) アミラーゼ です。また、生体内で触媒としてはたらくタンパク質を 酵素 とよびます。
与えられた数値を整理します:
- 質量 $w = 0.0112\text{ g} = 1.12 \times 10^{-2}\text{ g}$
- 体積 $V = 6.2\text{ mL} = 6.2 \times 10^{-3}\text{ L}$
- 絶対温度 $T = 273 + 37 = 310\text{ K}$
- 浸透圧 $\Pi = 83.1\text{ Pa}$
- 気体定数 $R = 8.31 \times 10^3\text{ Pa}\cdot\text{L}/(\text{mol}\cdot\text{K})$
求めるタンパク質Bの分子量を $M$ とすると、物質量は $n = \dfrac{w}{M}\ [\text{mol}]$ です。浸透圧の式 $\Pi V = \dfrac{w}{M}RT$ より、$M$ について解きます。 $$M = \frac{wRT}{\Pi V} = \frac{1.12 \times 10^{-2} \times 8.31 \times 10^3 \times 310}{83.1 \times 6.2 \times 10^{-3}}$$ ここで、数字の約分に注目してください!慈恵の化学は必ず綺麗に約分できるように設計されています! $$\frac{8.31 \times 10^3}{83.1} = 100, \qquad \frac{310}{6.2} = 50$$ したがって、 $$M = \frac{1.12 \times 10^{-2}}{10^{-3}} \times 100 \times 50 = 11.2 \times 5000 = 56000 = 5.6 \times 10^4$$ 体積 $6.2\text{ mL}$ や温度 $37\ ^\circ\text{C}$ が有効数字2桁なので、有効数字2桁で $5.6 \times 10^4$ と答えます。
問3・問4・問5:分液ろうとの上下層判定・凝固点降下・タンパク質の変性
問3:溶液C(上層)および溶液D(下層)それぞれの性質として最も適するものを (a)〜(f) から一つずつ選べ。
問4:溶媒I($5.20\text{ g}$)に $0.171\text{ g}$ の化合物E(分子量 $342$、非電解質)を溶解した溶液の凝固点降下度は、溶媒Iにヨウ化セシウム($\text{CsI}$、完全電離)を溶解して $32.40\text{ g}$ とした溶液と同じであった。用いたヨウ化セシウムの質量($\text{g}$)を有効数字2桁で答えよ。
問5:下線部②(四塩化炭素を加えて振り混ぜたときに凝固した物質)は何から生じたものか、(a)〜(g) から選べ。
袋の外の水には、アミラーゼによってデンプンが分解されて生じた二糖であるマルトース(麦芽糖、$\text{C}_{12}\text{H}_{22}\text{O}_{11}$、分子量 $342 \le 1000$)が溶け出しています。
ここにヘキサン(密度 $0.66\text{ g/cm}^3$、水より軽い)を加えると:
- 上層(溶液C):密度の小さいヘキサン層です。マルトースは極性分子なので無極性のヘキサンには一切溶けません。よって純粋なヘキサンであり、(a)〜(e) のどの反応も示さないため (f) です。
- 下層(溶液D):密度の大きい水層であり、ここにマルトース(化合物E)が溶けています。マルトースは分子内にヘミアセタール構造をもつ還元糖なので、アンモニア性硝酸銀水溶液を加えて加熱すると銀鏡反応(銀が生成)を示します!よって (d) です。(※マルトースは低分子の二糖なのでコロイドではなく、(e)のチンダル現象は示しません)。
凝固点降下度 $\Delta T_{\text{f}} = K_{\text{f}} m$ は、同じ溶媒Iを用いているので粒子の質量モル濃度 $m\ [\text{mol/kg}]$ が等しいときに同じ値になります。
【溶液1:化合物E(マルトース)の溶液】
- 溶媒Iの質量:$5.20\text{ g}$
- 化合物E(分子量 $342$、非電解質)の物質量:$n_{\text{E}} = \dfrac{0.171}{342} = 0.000500\text{ mol} = 5.00 \times 10^{-4}\text{ mol}$
【溶液2:ヨウ化セシウム($\text{CsI}$)の溶液】
ここで問題文を注意深く読みましょう!「溶媒Iにヨウ化セシウムを溶解して(溶液全体の質量を)$32.40\text{ g}$ とした溶液」と書かれています!
$\text{CsI}$ の式量は $\text{Cs}(133) + \text{I}(127) = 260$ です。溶かした $\text{CsI}$ の質量を $x\ [\text{g}]$ とおくと、
- 溶媒Iの質量:$(32.40 - x)\ [\text{g}]$(※ここを $32.40\text{ g}$ としないように超注意!)
- $\text{CsI}$ の物質量:$\dfrac{x}{260}\ [\text{mol}]$
- $\text{CsI} \longrightarrow \text{Cs}^+ + \text{I}^-$ と2個のイオンに完全電離するため、全粒子の物質量は $2 \times \dfrac{x}{260} = \dfrac{x}{130}\ [\text{mol}]$ です。
両溶液の「溶媒 $1\text{ g}$ あたりの全粒子モル数」が等しいので、次の等式が立ちます。 $$\frac{5.00 \times 10^{-4}\text{ mol}}{5.20\text{ g}} = \frac{\dfrac{x}{130}\text{ mol}}{(32.40 - x)\text{ g}}$$ 左辺と右辺の分母を整理します($130 \div 5.20 = 25$ なので両辺に $130$ を掛けると一気に簡単になります!): $$\frac{5.00 \times 10^{-4} \times 130}{5.20} = \frac{x}{32.40 - x}$$ $$5.00 \times 10^{-4} \times 25 = \frac{x}{32.40 - x} \implies 0.0125 = \frac{x}{32.40 - x}$$ $0.0125 = \dfrac{1}{80}$ なので、 $$\frac{1}{80} = \frac{x}{32.40 - x} \implies 80x = 32.40 - x \implies 81x = 32.40$$ $$x = \frac{32.40}{81} = 0.40\text{ g}$$ (※もし万が一、問題文の「$32.40\text{ g}$ とした」の $x$ が溶媒質量に比べて無視できる、あるいは溶媒Iを $32.40\text{ g}$ 用いたと解釈した場合は $x \fallingdotseq 0.405\text{ g} \rightarrow 0.41\text{ g}$ となりますが、$81x = 32.40$ が $32.40 \div 81 = 0.40$ と割り切れる作問数値になっていることから、$(32.40 - x)\text{ g}$ で立式して $0.40\text{ g}$ を導かせる美しい作問であることが確定します!※なお、速報等で非電離と誤読した $0.80\text{ g}$ や $0.65\text{ g}$ が出回ることがありますが、正しくは $\text{CsI} = 260$、電離度 $1$(2粒子)より $0.40\text{ g}$ です)。
タンパク質の水溶液に四塩化炭素のような有機溶媒を加えて激しく振り混ぜると、タンパク質の立体構造(二次・三次構造)が壊れて変性し、水に不溶となって凝固(沈殿)します。したがって、凝固した物質は (b) タンパク質B から生じたものです。
問3:溶液C:(f) / 溶液D:(d)
問4:$0.40\text{ g}$
問5:(b)
問6・問7:炭化カルシウムの反応・熱化学(生成エンタルピー)・溶液Fの中和計算
問6:溶液Fを中和するために、$3.70\text{ g}$ の水酸化カルシウム $\text{Ca(OH)}_2$ が必要であった。
(i) 水酸化カルシウムは、水に炭化カルシウム($\text{CaC}_2$)を加えると生成する。この反応の化学反応式を答えよ。
(ii) (i)の反応で生成する気体(アセチレン $\text{C}_2\text{H}_2$)の燃焼エンタルピーが $-1301\text{ kJ/mol}$、$\text{CO}_2\text{(気)}$ および $\text{H}_2\text{O}\text{(液)}$ の生成エンタルピーがそれぞれ $-394\text{ kJ/mol},\ -286\text{ kJ/mol}$ のとき、(i)の気体の生成エンタルピーあるいは生成熱($\text{kJ/mol}$)を正負の符号とともに答えよ。
(iii) 溶液Fに含まれていた、この中和反応に関係する酸性物質の物質名および物質量($\text{mol}$)をすべて答えよ。
問7:化合物Gの物質名を答えよ。
炭化カルシウム $\text{CaC}_2$ に水 $\text{H}_2\text{O}$ を加えると、水酸化カルシウム $\text{Ca(OH)}_2$ とアセチレン $\text{C}_2\text{H}_2$(気体)が生成します。 $$\text{CaC}_2 + 2\text{H}_2\text{O} \longrightarrow \text{Ca(OH)}_2 + \text{C}_2\text{H}_2$$
アセチレン $\text{C}_2\text{H}_2\text{(気)}$ の生成エンタルピーを $\Delta H_{\text{f}}\ [\text{kJ/mol}]$ とします。
アセチレン $1\text{ mol}$ の完全燃焼の反応式は次の通りです:
$$\text{C}_2\text{H}_2\text{(気)} + \frac{5}{2}\text{O}_2\text{(気)} \longrightarrow 2\text{CO}_2\text{(気)} + \text{H}_2\text{O}\text{(液)} \qquad \Delta H = -1301\text{ kJ}$$
「反応エンタルピー $\Delta H = (\text{生成物の生成エンタルピーの総和}) - (\text{反応物の生成エンタルピーの総和})$」の公式に代入します(単体 $\text{O}_2$ の生成エンタルピーは $0$)。
$$-1301 = \left\{2 \times (-394) + 1 \times (-286)\right\} - \Delta H_{\text{f}}$$
$$-1301 = (-788 - 286) - \Delta H_{\text{f}}$$
$$-1301 = -1074 - \Delta H_{\text{f}}$$
$$\Delta H_{\text{f}} = 1301 - 1074 = +227\text{ kJ/mol}$$
したがって、生成エンタルピーを選ぶ場合は $+227\text{ kJ/mol}$、符号が逆の生成熱を選ぶ場合は $-227\text{ kJ/mol}$ となります(どちらで答えても正解です)。
実験2で四塩化炭素(密度 $1.59\text{ g/cm}^3$、下層)と水(密度 $1.0\text{ g/cm}^3$、上層)に分液したとき、上層(水層)に残った物質は以下の3つです:
- 袋の中に残っていたデンプン由来の糖類(デキストリン・オリゴ糖)
- リン酸($\text{H}_3\text{PO}_4$、不揮発性の3価の酸)
- 炭酸($\text{H}_2\text{CO}_3$、揮発性の2価の弱酸)
ここに $18\text{ mol/L}$ の硫酸($\text{H}_2\text{SO}_4$、不揮発性の2価の強酸)を $0.61\text{ mL}$ 加えて長時間加熱すると:
- 炭酸($\text{H}_2\text{CO}_3$)は、強酸である硫酸・リン酸の作用および加熱によって $\text{H}_2\text{CO}_3 \longrightarrow \text{H}_2\text{O} + \text{CO}_2\uparrow$ と分解し、二酸化炭素(気体③)として全て系外へ追い出されて消滅します!
- 袋の中のデンプン由来の糖類は、希硫酸を触媒として長時間加熱されることで完全に加水分解され、単糖である グルコース(化合物G、問7の答え) になります。
よって、加熱後の溶液Fに残っている酸性物質は「加えた硫酸」と「最初からあったリン酸」の2種類です!
それぞれの物質量を計算しましょう:
- 加えた硫酸($\text{H}_2\text{SO}_4$、2価)の物質量 $n_{\text{硫酸}}$: $$n_{\text{硫酸}} = 18\text{ mol/L} \times \frac{0.61}{1000}\text{ L} = 0.01098\text{ mol} \fallingdotseq \mathbf{0.011\text{ mol}}$$
- 中和に要した水酸化カルシウム($\text{Ca(OH)}_2$、式量 $40.0 + 17.0 \times 2 = 74.0$、2価の塩基)の物質量: $$n_{\text{Ca(OH)}_2} = \frac{3.70\text{ g}}{74.0\text{ g/mol}} = 0.0500\text{ mol}$$ これが出す $\text{OH}^-$ の総物質量は、$0.0500\text{ mol} \times 2\text{ 価} = \mathbf{0.100\text{ mol}}$ です。
- リン酸($\text{H}_3\text{PO}_4$、3価の酸)の物質量 $n_{\text{リン酸}}$:
硫酸(2価)とリン酸(3価)が出す $\text{H}^+$ の合計が $\text{OH}^-$ の物質量 $0.100\text{ mol}$ と等しくなるので、 $$2 \times n_{\text{硫酸}} + 3 \times n_{\text{リン酸}} = 0.100\text{ mol}$$ $n_{\text{硫酸}} = 0.01098\text{ mol}$ を代入すると、 $$2 \times 0.01098 + 3 n_{\text{リン酸}} = 0.100 \implies 0.02196 + 3 n_{\text{リン酸}} = 0.100$$ $$3 n_{\text{リン酸}} = 0.07804 \implies n_{\text{リン酸}} = 0.02601\dots \fallingdotseq \mathbf{0.026\text{ mol}}$$ (※リン酸が第3段階まで完全中和される場合は3価として $0.026\text{ mol}$、もし水溶液中の指示薬滴定で第2段階 $\text{HPO}_4^{2-}$ までの2価として働く設定の場合は $2 \times 0.011 + 2 n_{\text{リン酸}} = 0.100 \implies n_{\text{リン酸}} = 0.039\text{ mol}$ となりますが、高校化学の純粋な化学量論では $\text{H}_3\text{PO}_4$ は3価の酸として扱うため、$3 n_{\text{リン酸}} = 0.078 \implies \mathbf{0.026\text{ mol}}$ が標準解です)。
問6(i):$\text{CaC}_2 + 2\text{H}_2\text{O} \longrightarrow \text{Ca(OH)}_2 + \text{C}_2\text{H}_2$
問6(ii):$+227\text{ kJ/mol}$(生成エンタルピー) [または $-227\text{ kJ/mol}$(生成熱)]
問6(iii):硫酸:$0.011\text{ mol}$、リン酸:$0.026\text{ mol}$
問7:グルコース
問8:下層(混合物H)の高級脂肪酸と水素付加反応
下層(四塩化炭素層)から得られた混合物Hには、水に溶けず無極性溶媒に溶ける3種類の高級脂肪酸が含まれています。それぞれの化学式から、炭化水素鎖中の炭素間二重結合($\text{C}=\text{C}$)の数を調べましょう!(飽和脂肪酸の一般式は $\text{C}_n\text{H}_{2n+1}\text{COOH}$ です)。
- ミリスチン酸($\text{C}_{13}\text{H}_{27}\text{COOH}$):$2 \times 13 + 1 = 27$ なので、二重結合 $0$ 個の飽和脂肪酸(水素と反応しない)。
- パルミチン酸($\text{C}_{15}\text{H}_{31}\text{COOH}$):$2 \times 15 + 1 = 31$ なので、二重結合 $0$ 個の飽和脂肪酸(水素と反応しない)。
- リノレン酸($\text{C}_{17}\text{H}_{29}\text{COOH}$):飽和なら水素が $2 \times 17 + 1 = 35$ 個あるはずですが、$29$ 個しかありません!水素が $35 - 29 = 6$ 個($\text{H}_2$ 分子として $3$ 個分)少ないため、分子内に炭素間二重結合($\text{C}=\text{C}$)を $3$ 個もつ不飽和脂肪酸です!
したがって、水素と付加反応したのはリノレン酸のみです。
リノレン酸 $1\text{ mol}$ あたり $3\text{ mol}$ の水素($\text{H}_2$)が付加してステアリン酸($\text{C}_{17}\text{H}_{35}\text{COOH}$)になるため、消費された水素が $0.036\text{ mol}$ のとき、反応したリノレン酸の物質量は、
$$n_{\text{リノレン酸}} = \frac{0.036\text{ mol}}{3} = \mathbf{0.012\text{ mol}}$$
大問 3:芳香族炭化水素の構造決定・銅フタロシアニンの対称性と異性体・2価の酸の電離平衡
有機・理論融合
大問3も3つの独立テーマからなるオムニバス問題だよ!
第I部は分子量 $118$ の芳香族炭化水素($\text{C}_9\text{H}_{10}$)。「水素と付加反応しないのに不飽和度が $5$」ということは、ベンゼン環(不飽和度 $4$)に五員環(不飽和度 $1$)が縮合した「インダン」だと一発で決まる!
第II部の銅フタロシアニンの構造異性体数え上げ(問5)は、大環の平面を「裏返し(回転)」できることに注意して円順列・数珠順列の感覚で数えると4種類だとスッキリ分かるよ。
第III部のフェニルホスホン酸の電離平衡(問6)は、電離度 $\alpha$ が $1$ に比べて無視できない($C = 0.00500\text{ mol/L}$ に対して $K_1 = 0.0100\text{ mol/L}$ と大きい!)から、二次方程式の解の公式を使って正確に解くのが最大のポイントだよ!
第I部 問1・問2・問3:分子量118の芳香族炭化水素(インダン)とフタル酸
【問題文 I 要旨】
炭素原子と水素原子からなる芳香族炭化水素の化合物1は分子量が $118$ であり、炭素原子間の結合はひずみをほとんどもたない。化合物1は、触媒の存在下、水素と反応させても何も変化しないが、酸素で酸化することによりベンゼン環に2個のカルボキシ基が結合した化合物2に変換される。化合物2は、2個のカルボキシ基が互いに [ ア ] 位に結合したもので [ イ ] とよばれる。[ イ ] の2個のカルボキシ基をエステル化した化合物は、柔軟性や弾性を与えるために合成樹脂に添加されることもある。
問1:化合物1の構造式を記せ。
問2:空欄 [ ア ] に適する語句、および [ イ ] に適する化合物名を答えよ。
問3:熱を加えると軟化し、冷却すると硬化する性質をもつ合成樹脂を何というか答えよ。
炭素と水素のみからなる分子量 $118$ の化合物1の分子式を求めます。芳香族なので炭素数は $6$ 以上です。$118 \div 12 = 9$ 余り $10$ より、分子式は $\text{C}_9\text{H}_{10}$ です。
$\text{C}_9\text{H}_{10}$ の不飽和度を計算すると、
$$\text{不飽和度} = \frac{2 \times 9 + 2 - 10}{2} = 5$$
ベンゼン環1個で不飽和度 $4$ を消費するため、側鎖部分に「不飽和度 $1$(二重結合1個、または環構造1個)」が存在します。
ここで問題文の条件をチェックしましょう!
- 「触媒の存在下、水素と反応させても何も変化しない」$\rightarrow$ 側鎖に $\text{C}=\text{C}$ 二重結合はなく、環構造(シクロアルカン環)をつくっている!
- 「酸化するとベンゼン環に2個のカルボキシ基が結合した化合物2になる」$\rightarrow$ ベンゼン環の2箇所に炭素鎖が結合して環を巻いている(二置換ベンゼンの縮合環)!
- 「炭素原子間の結合はひずみをほとんどもたない」$\rightarrow$ ベンゼン環の隣り合う炭素(オルト位)どうしを3個のメチレン基($-\text{CH}_2-\text{CH}_2-\text{CH}_2-$)でつないだ五員環縮合構造(インダン)なら、結合角が正五角形の内角($108^\circ$)に近く、ひずみがほとんどありません!
▼ 化合物1(インダン)の構造式(問題表紙の「構造式の例」に準拠した表記)
インダンの五員環部分が酸化開裂すると、ベンゼン環の隣り合う位置(オルト位、または $o$ 位)に2個のカルボキシ基が結合した フタル酸(化合物2)が得られます(なお、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)などのフタル酸エステルは、ポリ塩化ビニルなどに柔軟性を与える「可塑剤」として添加されます)。
また、熱を加えると軟化して成形でき、冷却すると硬化する合成樹脂を 熱可塑性樹脂 とよびます(逆に熱を加えると三次元網目構造をつくって硬化する樹脂を熱硬化性樹脂とよびます)。
問1:上図の構造式(ベンゼン環の隣り合う炭素に $-\text{CH}_2-\text{CH}_2-\text{CH}_2-$ が結合した環状構造)
問2:ア オルト(または $o$) / イ フタル酸
問3:熱可塑性樹脂
第II部 問4・問5:銅フタロシアニンの繰り返し単位と構造異性体の数
【問題文 II 要旨】
フタロシアニンは原料のフタロニトリル(化合物3:ベンゼン環のオルト位に2個の $-\text{C}\equiv\text{N}$ が結合した分子)から合成される。銅フタロシアニン(化合物4)は対称性の高い化合物のため、対称的な位置にある炭素原子どうし、炭素原子と窒素原子の間、および窒素原子と銅原子の間の結合はすべて等価である。
問4:化合物4の構造式の中に、化合物3($\text{C}_8\text{H}_4\text{N}_2$)に由来する繰り返し単位を全て見つけ、繰り返し単位ごとに丸で囲め。
問5:化合物3のかわりに、置換基($-\text{CF}_3$)をもつ化合物5(4-トリフルオロメチルフタロニトリル)を用いて銅フタロシアニンを合成したときに生成する構造異性体の数を答えよ。
フタロニトリル(化合物3)1分子には、「ベンゼン環1個 + シアノ基の炭素2個 + 窒素2個」が含まれています。
銅フタロシアニン(化合物4)は、4分子のフタロニトリルが環状に重合してできています。各単位は「イソインドール環(ベンゼン環+五員環の炭素2個と内側の $\text{N}$ 原子1個)+ 隣の単位と橋渡しをする外側のメソ位 $\text{N}$ 原子1個」の計 $\text{C}_8\text{H}_4\text{N}_2$ からなります。
したがって、上下左右にある4つのベンゼン環それぞれについて、「ベンゼン環+五員環の $\text{C}-\text{N}-\text{C}$ + 外側の橋渡し $\text{N}$ 原子1個(時計回りまたは反時計回りに1つずつ割り当てたもの)」の4つのブロックを丸で囲みます。
▼ 問4:化合物3(C₈H₄N₂)由来の4つの繰り返し単位
▼ 問5:CF₃基の向き(時計回り=矢印)による4つの構造異性体
問題文に「銅フタロシアニンは対称性が高く、単結合と二重結合は実際にはすべて等価である」と明記されています。つまり、結合の単・二重の違いによる異性体は存在せず、純粋に4つのベンゼン環それぞれにおける $-\text{CF}_3$ 基の位置(向き)だけを考えればよいことになります!
化合物5(4-トリフルオロメチルフタロニトリル)は左右非対称なので、大環の上下左右4箇所に配置するとき、各ユニットの $-\text{CF}_3$ 基が「時計回り側($+$)を向くか」「反時計回り側($-$)を向くか」の2通りの向きがあります。
さらに、平面分子を裏返すと「時計回り($+$)」と「反時計回り($-$)」がすべて入れ替わることに注意して分類しましょう!
- パターン①:($+, +, +, +$)と($-, -, -, -$)
4つとも同じ向き。裏返すと一致するため、合わせて $1$ 種類。 - パターン②:($+, +, +, -$)と($-, -, -, +$)
3つが同じ向きで、1つだけ逆向き。これも裏返すと一致するため、合わせて $1$ 種類。 - パターン③:($+, +, -, -$)
時計回り2個が隣り合い、反時計回り2個も隣り合う配置。これで $1$ 種類。 - パターン④:($+, -, +, -$)
時計回り2個が向かい合い(対角)、反時計回り2個も向かい合う配置。これで $1$ 種類。
以上より、生成する構造異性体の数は $1 + 1 + 1 + 1 = \mathbf{4}$ 種類です!
問4:上図(左)のように、各ベンゼン環と五員環の炭素2個・内側の窒素1個・外側の橋渡し窒素1個($\text{C}_8\text{H}_4\text{N}_2$ 単位)を4つ丸で囲む。
問5:$4$
第III部 問6:フェニルホスホン酸の電離平衡(近似が使えない二次方程式の解法)
【問題文 III 要旨】
2価の酸であるフェニルホスホン酸 $\text{C}_6\text{H}_5\text{PO}_3\text{H}_2$(化合物6)は水溶液中で2段階に電離して平衡に達しており、ある温度 $T$ において $K_1 = 1.00 \times 10^{-2}\text{ mol/L},\ K_2 = 4.00 \times 10^{-8}\text{ mol/L}$ とする。
問6:温度 $T$ において、化合物6の水溶液の濃度が $0.00500\text{ mol/L}$ のとき、この水溶液の水素イオン濃度を有効数字2桁で答えよ。ただし、考え方や計算の過程を示すこと。1段階目の電離のみを考えればよい。($\sqrt{2} = 1.41,\ \sqrt{3} = 1.73,\ \sqrt{5} = 2.24,\ \sqrt{7} = 2.65$)
問題文の指示より、2段階目の電離は無視して1段階目の電離のみを考えます。
化合物6($\text{C}_6\text{H}_5\text{PO}_3\text{H}_2$)を $\text{H}_2\text{A}$ とおくと、1段階目の電離反応式は、
$$\text{H}_2\text{A} \rightleftarrows \text{H}^+ + \text{HA}^-$$
水溶液の初濃度を $C = 0.00500\text{ mol/L} = 5.00 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$、平衡時の水素イオン濃度を $[\text{H}^+] = x\ [\text{mol/L}]$ とおくと、各化学種の平衡濃度は次のようになります:
・$[\text{H}^+] = [\text{HA}^-] = x\ [\text{mol/L}]$
1段階目の電離定数 $K_1 = 1.00 \times 10^{-2}\text{ mol/L}$ の定義式に代入します。 $$K_1 = \frac{[\text{H}^+][\text{HA}^-]}{[\text{H}_2\text{A}]} = \frac{x^2}{5.00 \times 10^{-3} - x} = 1.00 \times 10^{-2}$$
ここで $C = 5.00 \times 10^{-3}$ に対して $K_1 = 1.00 \times 10^{-2} = 2C$ と非常に大きいため、電離度はかなり大きく、$5.00 \times 10^{-3} - x \fallingdotseq 5.00 \times 10^{-3}$ と近似することはできません。分母を払って二次方程式を整理しましょう!
$$x^2 = 1.00 \times 10^{-2}\left(5.00 \times 10^{-3} - x\right)$$
$$x^2 + 1.00 \times 10^{-2}x - 5.00 \times 10^{-5} = 0$$
計算を圧倒的にラクにするコツとして、$x = X \times 10^{-3}$ と置き換えて(または両辺に $10^6$ を掛けて)整数の二次方程式にするのがおすすめです!
$x = X \times 10^{-3}$ を代入して両辺を $10^{-6}$ で割ると、
$$X^2 + 10X - 50 = 0$$
二次方程式の解の公式を適用します($x > 0$ より $X > 0$):
$$X = -5 + \sqrt{5^2 - (-50)} = -5 + \sqrt{25 + 50} = -5 + \sqrt{75} = -5 + 5\sqrt{3}$$
問題文より $\sqrt{3} = 1.73$ を代入すると、
$$X = -5 + 5 \times 1.73 = -5 + 8.65 = 3.65$$
よって、求める水素イオン濃度 $x$ は、
$$x = 3.65 \times 10^{-3}\text{ mol/L} \fallingdotseq \mathbf{3.7 \times 10^{-3}\text{ mol/L}}$$
(有効数字2桁に四捨五入して $3.7 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$ となります)。
📝 解答用紙に書くべき「考え方や計算の過程」の記述例:
化合物6($\text{C}_6\text{H}_5\text{PO}_3\text{H}_2$)を $\text{H}_2\text{A}$、初濃度を $C = 5.00 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$、平衡時の水素イオン濃度を $[\text{H}^+] = x\ [\text{mol/L}]$ とおく。1段階目の電離のみを考えると、平衡時の各濃度は $[\text{H}_2\text{A}] = C - x$、$[\text{H}^+] = [\text{HA}^-] = x$ となる。
電離定数の式より、
$$K_1 = \frac{x^2}{5.00 \times 10^{-3} - x} = 1.00 \times 10^{-2}$$
整理すると $x^2 + 1.00 \times 10^{-2}x - 5.00 \times 10^{-5} = 0$。
$x > 0$ より解の公式を用いて解くと、
$$x = \frac{-1.00 \times 10^{-2} + \sqrt{1.00 \times 10^{-4} + 2.00 \times 10^{-4}}}{2} = 5.00 \times 10^{-3}(\sqrt{3} - 1)$$
$\sqrt{3} = 1.73$ を代入すると、$x = 5.00 \times 10^{-3} \times 0.73 = 3.65 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$。
有効数字2桁で表すと $3.7 \times 10^{-3}\text{ mol/L}$ となる。
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【出典・引用に関する表記】本ページで扱う入試問題の出典は各大学(東京慈恵会医科大学 2025年度 入試問題)に帰属します。本コンテンツは著作権法第32条(引用)および教育・学習支援の目的に基づき、受験生への解法・思考プロセスの解説(主)を行うために必要な範囲で問題文・図表(従)を引用・再構成して掲載しています。解答・解説および図解の著作権はTMPS医学館に帰属します。