表紙の「物理の記述問題に関する注意」に注目!
【問題冊子1ページの注意書き】
「物理の記述問題では、記述内容の深さや脈絡の豊かさに加えて、それを筋道立てて他者に伝える姿勢を重視する。」
👉 今年は大問が2題のみという衝撃の構成!どちらも前半の標準的な計算から始まり、後半は大学の熱統計力学(エントロピー増大則・第2種永久機関)や一般相対性理論(等価原理・慣性力の起源)を高校生向けに誘導して論述させる、慈恵医大らしい超本格派の思考力試験です。1ステップずつ丁寧に紐解いていきましょう!
⚡ 解答一覧(スピードチェック)
全2大問・全11設問大問 1 :多孔質栓を通る気体の断熱移動(ジュール・トムソン実験と断熱変化・熱力学第2法則)
大問 2 :ガンマ線放出による質量欠損・メスバウアー効果・加速台車上のドップラー効果と慣性力の起源
1. 多孔質体を通る気体の断熱移動(ジュール・トムソン過程)とポアソンの式・熱力学第2法則
大問1は、大学物理で学ぶ「ジュール・トムソン実験(細孔を通る定常流の断熱膨張)」と「断熱過程における $PV^\gamma$(エントロピーに対応)の増大則」をテーマにした超良問です!
合否の分かれ目は、問1〜問4をノーミスで確実に完答すること! 問1〜問3は基礎的な熱力学第1法則と状態方程式のパズル、問4も誘導に素直に乗れば簡単に証明できます。問5の論述は「もし $PV^\gamma$ が減る断熱変化があったら、どうやって $P$-$V$ グラフ上で時計回りのサイクル(外に正の仕事をする機関)を作るか?」を図を描いて説明すれば大幅加点が狙えますよ!
【大問 1 問題文】
図1のように、滑らかにすべるピストンとシリンダーからなる断熱容器AとBを、不活性な多孔質体を充填した細い断熱管を介してつないだ。容器Aには温度 $T_{\mathrm{A}}$,圧力 $P_{\mathrm{A}}$ の単原子分子理想気体を体積 $V_{\mathrm{A}}$ だけ入れた。容器A内の圧力はおもりAによって一定の値 $P_{\mathrm{A}}$ に保たれており、容器Bには気体を入れずに容積がゼロの状態で始める。いま、容器B内の圧力 $P_{\mathrm{B}}$ が $P_{\mathrm{A}}$ より低い一定の値になるようにおもりBを調節したところ、断熱管を通るゆっくりとした気体の流れが生じ、しばらくすると気体はすべて容器Bに移って、その温度は $T_{\mathrm{B}}$,体積は $V_{\mathrm{B}}$ となった。なお、気体にはたらく重力は無視する。また、単原子分子理想気体の比熱比 $\gamma$ は $\dfrac{5}{3}$ である。
【図1:断熱容器A・Bと多孔質体を充填した断熱管の模式図】
【Step 1】容器Aのピストンから気体が「された」仕事を求める
容器A内の気体は、一定の圧力 $P_{\mathrm{A}}$ でピストンAに押されながら、体積が $V_{\mathrm{A}}$ から $0$ まで減少します。
気体がされた仕事は、体積が減少(圧縮)するときに正($+$)となります。
(公式:$W_{\text{された}} = -P\Delta V$)
容器Aにおいて、圧力は $P_{\mathrm{A}}$ で一定、体積変化は $\Delta V_{\mathrm{A}} = 0 - V_{\mathrm{A}} = -V_{\mathrm{A}}$ なので、容器Aのピストンから気体がされた仕事 $W_{\mathrm{A}}$ は、
$$W_{\mathrm{A}} = -P_{\mathrm{A}}(0 - V_{\mathrm{A}}) = P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}$$
となります。
【Step 2】容器Bのピストンから気体が「された」仕事を求める
一方、容器Bに流入した気体は、一定の圧力 $P_{\mathrm{B}}$ を保ちながらピストンBを押し上げ、体積が $0$ から $V_{\mathrm{B}}$ まで増加(膨張)します。
体積変化は $\Delta V_{\mathrm{B}} = V_{\mathrm{B}} - 0 = V_{\mathrm{B}}$ なので、容器Bのピストンから気体がされた仕事 $W_{\mathrm{B}}$ は、
$$W_{\mathrm{B}} = -P_{\mathrm{B}}(V_{\mathrm{B}} - 0) = -P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$$
となります。(気体が外部に $P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$ の仕事をしたため、「された仕事」としてはマイナスになります。)
【Step 3】全過程で気体がされた仕事 $W$ を合算する
したがって、気体がすべて容器Aから容器Bに移る過程において、気体全体が外部(ピストンAおよびB)からされた正味の仕事 $W$ は、 $$W = W_{\mathrm{A}} + W_{\mathrm{B}} = P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} - P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$$ となります。
【Step 1】単原子分子理想気体の状態方程式と内部エネルギーを表す
気体の物質量を $n$ [mol]、気体定数を $R$ とします(または分子数を $N$、ボルツマン定数を $k$ としても全く同じです)。
はじめ(容器A内)とおわり(容器B内)で、気体はすべて容器Aから容器Bへ移動し、断熱管内の気体の量は無視できるため、気体の物質量 $n$ は変化しません。
理想気体の状態方程式より、はじめの状態とおわりの状態について、
$$P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} = nRT_{\mathrm{A}} \quad \cdots \text{①}$$
$$P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}} = nRT_{\mathrm{B}} \quad \cdots \text{②}$$
が成り立ちます。
また、単原子分子理想気体の内部エネルギー $U$ は $U = \dfrac{3}{2}nRT$ と表されるため、はじめの内部エネルギー $U_{\mathrm{A}}$ とおわりの内部エネルギー $U_{\mathrm{B}}$ はそれぞれ、
$$U_{\mathrm{A}} = \frac{3}{2}nRT_{\mathrm{A}}, \qquad U_{\mathrm{B}} = \frac{3}{2}nRT_{\mathrm{B}}$$
であり、内部エネルギーの増加量 $\Delta U$ は、
$$\Delta U = U_{\mathrm{B}} - U_{\mathrm{A}} = \frac{3}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}}) \quad \cdots \text{③}$$
となります。
【Step 2】熱力学第1法則(断熱過程:$W = \Delta U$)に代入して $T_{\mathrm{A}} = T_{\mathrm{B}}$ を導く
問題文にある通り、気体と周囲との間に熱の交換が全く起こらない(吸熱量 $Q = 0$)ので、問1で求めた「気体がされた仕事 $W = P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} - P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$」は、内部エネルギーの増加量 $\Delta U$ に等しくなります。
$$W = \Delta U$$
$$P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} - P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}} = \frac{3}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}})$$
この式の左辺に①式と②式を代入すると、
$$nRT_{\mathrm{A}} - nRT_{\mathrm{B}} = \frac{3}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}})$$
両辺を $nR$($\neq 0$)で割ると、
$$T_{\mathrm{A}} - T_{\mathrm{B}} = \frac{3}{2}(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}})$$
右辺を移項して整理すると、
$$\frac{5}{2}(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}}) = 0$$
$$\therefore \quad T_{\mathrm{A}} = T_{\mathrm{B}}$$
となり、移動前後で気体の温度が等しくなることが導かれました。
熱の交換がないため,問1で求めた気体がされた仕事 $W = P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} - P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$ と内部エネルギーの増加量 $\Delta U$ が等しいので,
$P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} - P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}} = \dfrac{3}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}})$
ここに状態方程式を代入すると,$nR(T_{\mathrm{A}} - T_{\mathrm{B}}) = \dfrac{3}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}})$ となり,$\dfrac{5}{2}nR(T_{\mathrm{B}} - T_{\mathrm{A}}) = 0$ より $T_{\mathrm{A}} = T_{\mathrm{B}}$ となる。(証明終)
【Step 1】$T_{\mathrm{A}} = T_{\mathrm{B}}$ から $P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}$ と $P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$ の関係を求める
問2の結果 $T_{\mathrm{A}} = T_{\mathrm{B}}$ と理想気体の状態方程式より、 $$P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} = nRT_{\mathrm{A}} = nRT_{\mathrm{B}} = P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$$ すなわち、 $$P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} = P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}} \quad \Longleftrightarrow \quad \frac{V_{\mathrm{B}}}{V_{\mathrm{A}}} = \frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}} \quad \cdots \text{④}$$ が成り立っています。
【Step 2】比 $\dfrac{P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}^\gamma}{P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}^\gamma}$ を計算し、$\gamma = \dfrac{5}{3}$ を代入する
求めたい倍率 $\dfrac{P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}^\gamma}{P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}^\gamma}$ に④式の $\dfrac{V_{\mathrm{B}}}{V_{\mathrm{A}}} = \dfrac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}$ を代入して変形します。
$$\frac{P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}^\gamma}{P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}^\gamma} = \frac{P_{\mathrm{B}}}{P_{\mathrm{A}}}\left(\frac{V_{\mathrm{B}}}{V_{\mathrm{A}}}\right)^\gamma = \frac{P_{\mathrm{B}}}{P_{\mathrm{A}}}\left(\frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^\gamma = \left(\frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^{-1}\left(\frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^\gamma = \left(\frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^{\gamma - 1}$$
ここで、問題文の条件より単原子分子理想気体の比熱比は $\gamma = \dfrac{5}{3}$ なので、
$$\gamma - 1 = \frac{5}{3} - 1 = \frac{2}{3}$$
よって、
$$\frac{P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}^\gamma}{P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}^\gamma} = \left(\frac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^{\frac{2}{3}}$$
となります。
💡 チェック:$P_{\mathrm{B}} < P_{\mathrm{A}}$ なので $\dfrac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}} > 1$ です。つまり、この不可逆な断熱変化では $P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}^\gamma > P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}^\gamma$ となり、$PV^\gamma$ の値が必ず増加しています!これが問4・問5への重要な伏線です。
【Step 1】前半:$\dfrac{3}{2}Nk\Delta T + P\Delta V = 0$ の関係を説明する
分子数 $N$、ボルツマン定数 $k$ を用いると、単原子分子理想気体の状態方程式は
$$PV = NkT \quad \cdots \text{①}$$
であり、内部エネルギー $U$ は
$$U = \frac{3}{2}NkT \quad \cdots \text{②}$$
と表されます。
気体の温度が $T$ から $T + \Delta T$ へ微小量 $\Delta T$ だけ変化したとき、気体の内部エネルギーの変化量 $\Delta U$ は、
$$\Delta U = \frac{3}{2}Nk\Delta T$$
です。
また、圧力 $P$ が気体全体にわたって一様なまま体積が $V$ から $V + \Delta V$ へ微小量 $\Delta V$ だけ膨張するとき、気体が外部にする仕事 $W_{\text{した}}$ は(圧力の微小変化 $\Delta P$ との積 $\Delta P \Delta V$ は2次の微小量としてゼロとみなせるため)、
$$W_{\text{した}} = P\Delta V$$
(すなわち、気体が外部からされた仕事は $W_{\text{された}} = -P\Delta V$)となります。
断熱膨張では外部との熱のやり取りがない(吸熱量 $Q = 0$)ため、熱力学第1法則 $\Delta U + W_{\text{した}} = Q$(または $\Delta U = W_{\text{された}}$)より、
$$\frac{3}{2}Nk\Delta T + P\Delta V = 0 \quad \cdots \text{③}$$
が成り立ちます。
【Step 2】後半:③式と状態方程式から $PV^\gamma = \text{一定}$ を導く
③式に状態方程式①より $P = \dfrac{NkT}{V}$ を代入すると、
$$\frac{3}{2}Nk\Delta T + \frac{NkT}{V}\Delta V = 0$$
両辺を $\dfrac{3}{2}NkT$($\neq 0$)で割ると、
$$\frac{\Delta T}{T} + \frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} = 0 \quad \cdots \text{④}$$
が得られます。
ここで、状態方程式 $PV = NkT$ より $T = \dfrac{PV}{Nk}$ であり、$N, k$ は定数なので、圧力 $P$ と体積 $V$ がそれぞれ $P \to P + \Delta P$,$V \to V + \Delta V$ と微小変化したときの温度変化 $\Delta T$ を求めます。
(あるいは $\log T = \log P + \log V - \log(Nk)$ の微小変化をとるとさらに明快です!)
問題文で与えられた近似公式 $\Delta \log x = \dfrac{\Delta x}{x}$ を用いると、状態方程式 $PV = NkT$ の両辺の自然対数をとって、
$$\log P + \log V = \log(Nk) + \log T$$
この両辺の微小変化をとると、$\log(Nk)$ は定数なので変化量は $0$ であり、
$$\Delta \log P + \Delta \log V = \Delta \log T$$
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots \text{⑤}$$
(※別解として $(P+\Delta P)(V+\Delta V) = Nk(T+\Delta T)$ を展開し、2次の微小量 $\Delta P\Delta V = 0$ として $PV = NkT$ を引けば $V\Delta P + P\Delta V = Nk\Delta T$ となり、両辺を $PV = NkT$ で割っても同じく⑤式 $\dfrac{\Delta P}{P} + \dfrac{\Delta V}{V} = \dfrac{\Delta T}{T}$ が得られます。)
⑤式を④式に代入して $\dfrac{\Delta T}{T}$ を消去すると、
$$\left(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V}\right) + \frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} = 0$$
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{5}{3}\frac{\Delta V}{V} = 0$$
ここで $\gamma = \dfrac{5}{3}$ であるから、
$$\frac{\Delta P}{P} + \gamma \frac{\Delta V}{V} = 0 \quad \cdots \text{⑥}$$
再び $\dfrac{\Delta x}{x} = \Delta \log x$ の関係を用いると、⑥式は
$$\Delta \log P + \gamma \Delta \log V = 0$$
対数の性質より $\log P + \gamma \log V = \log(PV^\gamma)$ なので、
$$\Delta \log(PV^\gamma) = 0$$
これは、ゆるやかな(可逆な)微小断熱膨張の前後で $\log(PV^\gamma)$ の変化量が常に $0$ であることを意味します。
したがって、$\log(PV^\gamma) = \text{一定}$、すなわち
$$PV^\gamma = \text{一定}$$
となることが導かれました。
【前半の説明】
単原子分子理想気体の内部エネルギーは $U = \dfrac{3}{2}NkT$ であるため,温度が $\Delta T$ 変化したときの内部エネルギーの変化量は $\Delta U = \dfrac{3}{2}Nk\Delta T$ である。また,圧力 $P$ が一様なまま体積が $\Delta V$ だけ微小変化するとき,圧力の微小変化 $\Delta P$ との積 $\Delta P\Delta V$ は2次の微小量として無視できるため,気体が外部にする仕事は $W = P\Delta V$ となる。断熱変化では熱の出入りが $0$ であるから,熱力学第1法則 $\Delta U + W = 0$ より,
$$\frac{3}{2}Nk\Delta T + P\Delta V = 0 \quad \cdots \text{①}$$
が成り立つ。
【後半の導出】
理想気体の状態方程式 $PV = NkT$ より $P = \dfrac{NkT}{V}$ を①に代入して両辺を $\dfrac{3}{2}NkT$ で割ると,
$$\frac{\Delta T}{T} + \frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} = 0 \quad \cdots \text{②}$$
となる。また,$PV = NkT$ の両辺の自然対数をとると $\log P + \log V = \log(Nk) + \log T$ となり,$N, k$ は定数であるから微小変化をとると $\Delta\log x = \dfrac{\Delta x}{x}$ より,
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots \text{③}$$
が成り立つ。③を②に代入すると,$\gamma = \dfrac{5}{3}$ より
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{5}{3}\frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta P}{P} + \gamma\frac{\Delta V}{V} = 0$$
となり,$\Delta\log x = \dfrac{\Delta x}{x}$ を逆向きに用いれば,
$$\Delta\log P + \gamma\Delta\log V = \Delta\log(PV^\gamma) = 0$$
となる。ゆえに $\log(PV^\gamma)$ は変化せず一定であり,$PV^\gamma = \text{一定}$ となる。(証明終)
ここが大問1のクライマックスです!「$PV^\gamma$ が減少する断熱過程(仮定の過程)」を使って、1つの熱源から熱 $Q (>0)$ を吸収し、それを100%正味の仕事 $W_{\text{正味}} = Q (>0)$ に変えて元の状態に戻るサイクルを組み立ててみましょう!
実は、サイクルの組み方は大きく分けて3通りの明快なルートがあります。どのルートでも満点が取れるように、一番わかりやすい「等温膨張で熱を吸収するサイクル(パターンA)」をメインに、パターンB・Cもあわせて完全図解しますね!
【Step 1】$PV^\gamma$ の大小関係が $P$-$V$ グラフ上で何を意味するかを整理する
状態方程式 $PV = NkT$ を用いると、$PV^\gamma$ は温度 $T$ と体積 $V$ を使って次のように書けます:
$$PV^\gamma = (NkT)V^{\gamma - 1} = Nk T V^{\frac{2}{3}}$$
したがって、「断熱過程で $PV^\gamma$ が減少する」ということは、次のことを意味します。
ある初期状態1(圧力 $P_1$,体積 $V_1$,温度 $T_1$)から、仮定された「$PV^\gamma$ が減少する断熱過程(状態1 $\to$ 状態2)」を行ったとします。すると、状態2(圧力 $P_2$,体積 $V_2$,温度 $T_2$)では、
$$P_2 V_2^\gamma < P_1 V_1^\gamma \quad \Longleftrightarrow \quad T_2 V_2^{\gamma-1} < T_1 V_1^{\gamma-1}$$
となります。
次に、状態2から問4で導いた「可逆な(ゆるやかな)断熱変化($PV^\gamma = P_2 V_2^\gamma = \text{一定}$)」を行うと、体積や温度を自由に変えられます。
そこで、次の2つの代表的なサイクル(パターンA または パターンB)のどちらかを作ると、簡単に第2種永久機関が完成します!
【パターンA:等温膨張で単一熱源から熱を吸収するサイクル】
【パターンB:問1〜3の装置と組み合わせる定積吸熱サイクル】
【Step 2】パターンA(単一熱源との等温膨張サイクル)の論理を完全構築する
最も厳密で減点されない「単一の熱源(温度 $T_1$)のみと熱をやり取りする第2種永久機関」の構成手順は以下の3ステップです。
① 第1過程(状態1 $\to$ 状態2:仮定された $PV^\gamma$ が減少する断熱過程)
温度 $T_1$、圧力 $P_1$、体積 $V_1$ の状態1にある気体に、仮定された「$PV^\gamma$ が減少する断熱過程」を行わせて状態2(温度 $T_2$、圧力 $P_2$、体積 $V_2$)に移す。このとき、
$$P_2 V_2^\gamma < P_1 V_1^\gamma \quad \cdots (*)$$
が成り立つ。
② 第2過程(状態2 $\to$ 状態3:可逆な断熱変化で温度を元の $T_1$ に戻す過程)
次に、状態2の気体を問4のように圧力にムラがないようゆるやかに(可逆的に)断熱変化させて、気体の温度がはじめと同じ $T_1$ になる状態3(温度 $T_1$、圧力 $P_3$、体積 $V_3$)まで変化させる。
問4より、この可逆な断熱変化では $PV^\gamma$ は一定に保たれるため、
$$P_3 V_3^\gamma = P_2 V_2^\gamma$$
である。これと $(*)$ 式より、
$$P_3 V_3^\gamma < P_1 V_1^\gamma$$
となる。ここで、状態1と状態3はともに温度が $T_1$ で等しいため、状態方程式より $P_3 V_3 = P_1 V_1 = NkT_1$ である。これを上式に代入すると、
$$(P_1 V_1) V_3^{\gamma - 1} < (P_1 V_1) V_1^{\gamma - 1} \quad \Longrightarrow \quad V_3^{\frac{2}{3}} < V_1^{\frac{2}{3}} \quad \Longrightarrow \quad V_3 < V_1$$
となり、状態3の体積 $V_3$ は必ず状態1の体積 $V_1$ より小さくなる。
また、過程①と過程②はともに断熱過程($Q_{1\to 2} = 0, Q_{2\to 3} = 0$)であり、状態1と状態3の温度はともに $T_1$ で等しいため、状態1から状態2を経て状態3に至るまでの内部エネルギーの変化量は
$$\Delta U_{1\to 2\to 3} = \frac{3}{2}Nk(T_1 - T_1) = 0$$
である。したがって、熱力学第1法則より、この2つの断熱過程($1\to 2\to 3$)で気体が外部にした仕事の合計はちょうどゼロ($W_{1\to 2\to 3} = 0$)である。
③ 第3過程(状態3 $\to$ 状態1:温度 $T_1$ の単一熱源と接しながらの等温膨張過程)
最後に、状態3(温度 $T_1$、体積 $V_3$)の気体を、温度 $T_1$ の単一の熱源に接触させながら、温度 $T_1$ を一定に保ったまま元の体積 $V_1$($> V_3$)までゆるやかに等温膨張させて状態1に戻す。
この等温膨張過程($3\to 1$)では、気体の温度が $T_1$ で一定のため内部エネルギーは変化せず($\Delta U_{3\to 1} = 0$)、体積が $V_3$ から $V_1$($> V_3$)へ膨張するため、気体は外部に正の仕事 $W_{3\to 1} > 0$ をし、熱力学第1法則よりそれと全く同じ大きさの正の熱量 $Q = W_{3\to 1} > 0$ を温度 $T_1$ の熱源から吸収する。
【結論】
以上のサイクル($1 \to 2 \to 3 \to 1$)を1周すると、気体は元の状態1に戻り、1サイクル全体で温度 $T_1$ の単一の熱源から吸収した熱量 $Q (>0)$ を、他に何の変化も残さずにすべて正味の力学的仕事 $W_{\text{全体}} = W_{1\to 2\to 3} + W_{3\to 1} = 0 + Q = Q (>0)$ に変えることになり、第2種永久機関が作れることになる。
【Step 3】別解(パターンB・C)でもバッチリ正解になる理由
パターンA以外にも、以下のようなサイクルを記述しても完全に正解(満点)となります。
・【パターンB(同じ体積 $V_1$ に戻して加熱するサイクル)】
状態1 $(P_1, V_1, T_1)$ から仮定の断熱過程と可逆な断熱過程を組み合わせて、同じ体積 $V_1$ の状態3 $(P_3, V_1, T_3)$ に移すと、$P_3 V_1^\gamma < P_1 V_1^\gamma$ より $P_3 < P_1$ かつ $T_3 < T_1$ となる。この断熱過程 $1 \to 3$ では内部エネルギーが $\Delta U = \dfrac{3}{2}Nk(T_3 - T_1) < 0$ だけ減少するため、気体は外部に正の仕事 $W = \dfrac{3}{2}Nk(T_1 - T_3) > 0$ をする。その後、体積 $V_1$ を一定に保ったまま外部の熱源(例えば温度 $T_1$ の熱源)から熱量 $Q = \dfrac{3}{2}Nk(T_1 - T_3) > 0$ を吸収させて状態1に戻せば、1サイクルで吸収した熱 $Q$ をすべて外部への仕事 $W = Q > 0$ に変える第2種永久機関となる。
・【パターンC(問1〜問3の多孔質管の装置を逆用するサイクル)】
問1〜問3の装置では、気体が圧力 $P_{\mathrm{A}}$ から低い圧力 $P_{\mathrm{B}}$ へ移動するときに温度が保たれ($T_{\mathrm{A}}=T_{\mathrm{B}}$)、$PV^\gamma$ が $\left(\dfrac{P_{\mathrm{A}}}{P_{\mathrm{B}}}\right)^{\frac{2}{3}}$ 倍に増加した。もし逆に「温度 $T_{\mathrm{A}}$ を保ったまま $PV^\gamma$ が減少する断熱過程」が存在すれば、低い圧力 $P_{\mathrm{B}}$・体積 $V_{\mathrm{B}}$ から高い圧力 $P_{\mathrm{A}}$・体積 $V_{\mathrm{A}}$(ただし $P_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}} = P_{\mathrm{B}}V_{\mathrm{B}}$ で仕事はゼロ)へ断熱的に気体を戻せることになる。その後、温度 $T_{\mathrm{A}}$ の熱源から熱 $Q > 0$ を吸収させながら圧力 $P_{\mathrm{A}}$ から $P_{\mathrm{B}}$ へ等温膨張させれば、吸収した熱 $Q$ をすべて正の仕事に変える第2種永久機関が作れる。
(過程1:状態1 $\to$ 状態2) 仮定された「$PV^\gamma$ が減少する断熱過程」を行い,状態2 $(P_2, V_2, T_2)$ に移す。このとき $P_2 V_2^\gamma < P_1 V_1^\gamma$ となる。
(過程2:状態2 $\to$ 状態3) 状態2から,問4のような圧力が一様な可逆的断熱変化を行って,温度が初期状態と同じ $T_1$ になる状態3 $(P_3, V_3, T_1)$ に移す。問4よりこの過程では $PV^\gamma$ は一定なので $P_3 V_3^\gamma = P_2 V_2^\gamma < P_1 V_1^\gamma$ である。状態1と状態3は温度が同じ $T_1$ なので状態方程式より $P_3 V_3 = P_1 V_1$ であり,これより $V_3^{\gamma-1} < V_1^{\gamma-1}$ すなわち $V_3 < V_1$ となる。また,過程1と過程2はともに断熱過程であり,始状態1と終状態3の温度がともに $T_1$ で内部エネルギーの変化が $0$ であるため,熱力学第1法則より過程1と過程2で気体が外部にする仕事の和は $0$ である。
(過程3:状態3 $\to$ 状態1) 状態3の気体を温度 $T_1$ の熱源に接触させ,温度 $T_1$ を保ったまま体積を $V_3$ から $V_1$($> V_3$)までゆるやかに等温膨張させて状態1に戻す。このとき内部エネルギーは変化せず,気体は熱源から正の熱量 $Q (>0)$ を吸収し,外部に正の仕事 $W = Q (>0)$ をする。
以上より,1サイクル($1\to 2\to 3\to 1$)全体では,温度 $T_1$ の単一熱源から熱 $Q (>0)$ を吸収し,それをすべて外部への正味の力学的仕事 $W = Q (>0)$ に変える第2種永久機関を作れることになる。
2. ガンマ線放出による質量欠損(メスバウアー効果)と加速系におけるドップラー効果・慣性力の起源
大問2は、アインシュタインの「質量とエネルギーの等価性 $E = mc^2$」と「等価原理(加速系と重力場・慣性力の関係)」を、高校物理のドップラー効果と運動量保存則だけで体験させる感動的な問題です!
・問1〜問3は、原子核のガンマ線放出と「メスバウアー効果(結晶に組み込んで反跳エネルギーをゼロにする技術)」の超定番問題!ここは絶対に満点を取りたい得点源です。
・問4・問5は、加速する台車上でのドップラー効果と、位置エネルギー $U(\Delta x)$ と保存力 $F = -\dfrac{\Delta U}{\Delta x}$ の関係を使うだけ!符号(正負の向き)にだけ注意すれば一気に完答できますよ!
【大問 2 問題文】
物質粒子も光子も,粒子性と波動性をあわせもち,運動量の大きさ $P$ と波長 $\lambda$ の間には,共通してプランク定数 $h$ を用いた $P = \dfrac{h}{\lambda}$ の関係がある。また,光子のエネルギー $E$ と振動数 $\nu$ の間には,$E = h\nu$ の関係がある。この著しい事実が意味するところを,放射性粒子のガンマ線放出による質量変化を例にとって考察しよう。以下では真空中の光速を $c$ とする。
【Step 1】波の基本式 $c = \nu\lambda$ と $E = h\nu$ から波長 $\lambda$ を求める
ガンマ線は電磁波(光)の一種なので、真空中の速さ $c$、振動数 $\nu$、波長 $\lambda$ の間に波の基本式
$$c = \nu\lambda \quad \Longleftrightarrow \quad \nu = \frac{c}{\lambda}$$
が成り立ちます。
これを光子のエネルギーの式 $E = h\nu$ に代入すると、
$$E = \frac{hc}{\lambda}$$
よって、ガンマ線の波長 $\lambda$ は、
$$\lambda = \frac{hc}{E}$$
となります。
【Step 2】$P = \dfrac{h}{\lambda}$ に波長 $\lambda$ を代入して運動量の大きさ $P$ を求める
問題文で与えられた関係式 $P = \dfrac{h}{\lambda}$ に、Step 1で求めた $\lambda = \dfrac{hc}{E}$ を代入すると、 $$P = \frac{h}{\dfrac{hc}{E}} = \frac{E}{c}$$ となります。
【ガンマ線放出前後の運動量とエネルギーの図解】
【Step 1】運動量保存則から、放出後の粒子の運動エネルギーを $P$ で表す
はじめ質量 $M$ の放射性粒子は静止していたので、放出前の全体の運動量は $0$ です。
ガンマ線光子が運動量の大きさ $P$ をもって放出されたとき、運動量保存則より、放出後の質量 $M-m$ の粒子はガンマ線光子と正反対の向きに同じ大きさ $P$ の運動量をもつことになります。
放出後の粒子の速さを $V$ とすると、粒子の運動は光速 $c$ に比べて十分遅いため、非相対論的な運動量の式 $(M-m)V = P$ が成り立ちます。これより、放出後の粒子(質量 $M-m$)がもつ運動エネルギー $K$ は、
$$K = \frac{1}{2}(M-m)V^2 = \frac{\{(M-m)V\}^2}{2(M-m)} = \frac{P^2}{2(M-m)}$$
と表されます。
【Step 2】ガンマ線光子のエネルギーと質量エネルギーを含めてエネルギー保存則を立てる
問1の結果 $P = \dfrac{E}{c}$ より、運動量の大きさ $P$ をもつガンマ線光子1個のエネルギー $E$ は、
$$E = cP$$
です。
また、アインシュタインの質量とエネルギーの等価性より、質量 $M$ の静止した粒子は静止エネルギー $Mc^2$ をもち、放出後の質量 $M-m$ の粒子は静止エネルギー $(M-m)c^2$ をもちます。
したがって、放出前後の全エネルギー保存則は、
$$Mc^2 = (M-m)c^2 + \frac{P^2}{2(M-m)} + cP$$
(または両辺から $(M-m)c^2$ を引いて整理した形:
$$mc^2 = \frac{P^2}{2(M-m)} + cP$$
)となります。
💡 どちらの形で書いても大正解ですが、採点者に意図が100%伝わるよう、両方の形を答案に併記しておくのが医学部記述の鉄則です!
【Step 1】問2のエネルギー保存式を $c^2$ を掛けて比較しやすい形にする
問2で得たエネルギー保存の式を整理すると、
$$mc^2 = \frac{P^2}{2(M-m)} + cP \quad \cdots \text{①}$$
です。ここで、求めるガンマ線光子1個分のエネルギーは問1より $E = cP$ です。
問題文のヒント「$cP < mc^2 \ll Mc^2$」を活かすため、①式の右辺第1項(粒子の反跳運動エネルギー)の分母・分子に $c^2$ を掛けて変形すると、
$$\frac{P^2}{2(M-m)} = \frac{(cP)^2}{2(M-m)c^2} = \frac{(cP)^2}{2(Mc^2 - mc^2)}$$
となります。これを①式に戻し、両辺を $mc^2$ で割ると、
$$1 = \frac{cP}{mc^2} \cdot \frac{cP}{2(Mc^2 - mc^2)} + \frac{cP}{mc^2}$$
あるいは、①式から直接
$$cP = mc^2 - \frac{(cP)^2}{2(Mc^2 - mc^2)} \quad \cdots \text{②}$$
と表せます。
【Step 2】$cP < mc^2 \ll Mc^2$ の条件から反跳運動エネルギーがゼロになることを示す
ここで、条件 $cP < mc^2 \ll Mc^2$ より、まず分母については $mc^2 \ll Mc^2$ なので $Mc^2 - mc^2 \fallingdotseq Mc^2$ であり、さらに分子の $(cP)^2$ については $cP < mc^2$ より $(cP)^2 < (mc^2)^2$ が成り立ちます。
したがって、②式の右辺第2項(粒子の反跳運動エネルギー)は、
$$0 < \frac{(cP)^2}{2(Mc^2 - mc^2)} < \frac{(mc^2)^2}{2(Mc^2 - mc^2)} = \frac{mc^2}{2\left(\dfrac{M}{m} - 1\right)}$$
と評価できます。
$mc^2 \ll Mc^2$(すなわち $M$ を事実上無限大 $\dfrac{M}{m} \to \infty$ とする)のとき、$\dfrac{mc^2}{Mc^2} \to 0$ となるため、この第2項(結晶全体の反跳運動エネルギー)は $mc^2$ に比べて完全に無視でき、$0$ となります。
ゆえに②式より、放出されるガンマ線光子1個分のエネルギー $E = cP$ は、
$$E = cP = mc^2$$
となります。(これがノーベル物理学賞を受賞した「メスバウアー効果」の原理です!)
【図2:加速度 $a$ で加速する台車上でのガンマ線の放出と検出】
【Step 1】ガンマ線放出時と観測時の台車(結晶・検出器)の速度を整理する
ガンマ線が結晶から放出される瞬間の時刻を $t = 0$ とします。
簡単のため、時刻 $t = 0$ における台車(結晶)の速度を $0$ としても一般性を失いませんが、どんな初速度 $v_0$ でも成り立つことを示すため、時刻 $t = 0$ における台車の速度を $x$ 軸正の向きに $v_0$($|v_0| \ll c$)とおいて計算してみましょう。
・時刻 $t = 0$(放出の瞬間):結晶は $x$ 軸正の向きに速さ $v_0$ で運動しながら、$x$ 軸負の向き(進行方向と逆向き=後方)にガンマ線を放出します。
・時刻 $t = \Delta t = \dfrac{\Delta x}{c}$(検出器での観測の瞬間):台車は $x$ 軸正の向きに一定の加速度 $a$ で加速し続けているため、時間 $\Delta t = \dfrac{\Delta x}{c}$ が経過した瞬間の検出器の速度 $v_1$($x$ 軸正の向き)は、
$$v_1 = v_0 + a\Delta t = v_0 + \frac{a\Delta x}{c}$$
となります。検出器は $x$ 軸正の向きに運動しているため、$x$ 軸負の向きに進んでくるガンマ線に向かって(正面から迎え撃つ向きに)速さ $v_1$ で動いています!
【Step 2】ドップラー効果の式から、検出器が観測する振動数 $\nu'$ を求める
結晶に対して静止している観測者から見たガンマ線光子1個のエネルギーを $E_0$、振動数を $\nu_0$ とすると、問3より
$$E_0 = h\nu_0 = mc^2 \quad \cdots \text{①}$$
です。
ガンマ線の伝わる向き($x$ 軸負の向き)を基準(波の進行方向の正の向き)としてドップラー効果の公式を適用します。
・音源(結晶)は、ガンマ線の進行方向($x$ 軸負の向き)とは逆向き(遠ざかる向き)に速さ $v_0$ で動いています。
・観測者(検出器)は、ガンマ線がやってくる方向($x$ 軸正の向き=ガンマ線に近づく向き)に速さ $v_1 = v_0 + \dfrac{a\Delta x}{c}$ で動いています。
したがって、波の速さを $c$ として、検出器が観測するガンマ線の振動数 $\nu'$ は、ドップラー効果の公式より、
$$\nu' = \frac{c + v_1}{c + v_0}\nu_0 = \frac{c + v_0 + \dfrac{a\Delta x}{c}}{c + v_0}\nu_0 = \left(1 + \frac{\dfrac{a\Delta x}{c}}{c + v_0}\right)\nu_0$$
となります。
ここで、台車の速さ $v_0$ は光速 $c$ に比べて十分遅い($|v_0| \ll c$)ため、分母は $c + v_0 \fallingdotseq c$ と近似でき(または放出瞬間の慣性系を基準にとれば厳密に $v_0 = 0$ となり)、$a$ について1次までをとると、
$$\nu' = \left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right)\nu_0 \quad \cdots \text{②}$$
となります。
(※別解:結晶から見た検出器の相対速度で考えても、放出から検出までの時間 $\Delta t = \dfrac{\Delta x}{c}$ の間に検出器は結晶から見てガンマ線に近づく向きに速さ $\Delta v = a\Delta t = \dfrac{a\Delta x}{c}$ を得るため、ドップラー効果より $\nu' = \left(1 + \dfrac{\Delta v}{c}\right)\nu_0 = \left(1 + \dfrac{a\Delta x}{c^2}\right)\nu_0$ と1行で求まります!)
【Step 3】検出器が観測するガンマ線光子1個分のエネルギー $E'$ を求める
検出器が観測するガンマ線光子1個分のエネルギー $E'$ は $E' = h\nu'$ であるから、②式の両辺に $h$ を掛けて①式の $h\nu_0 = mc^2$ を代入すると、 $$E' = h\nu' = h\nu_0\left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right) = mc^2\left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right) = mc^2 + ma\Delta x$$ となります。
ガンマ線が結晶から $x$ 軸負の向きに放出されてから時間 $\Delta t = \dfrac{\Delta x}{c}$ 後に検出器に達するとき,検出器は $x$ 軸正の向き(ガンマ線に向かって近づく向き)に速さ $\Delta v = a\Delta t = \dfrac{a\Delta x}{c}$ を得ている。したがって,ドップラー効果により検出器が観測するガンマ線の振動数 $\nu'$ は, $$\nu' = \frac{c + \Delta v}{c}\nu_0 = \left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right)\nu_0$$ となる。ゆえに,検出器が観測するガンマ線光子1個分のエネルギー $E' = h\nu'$ は, $$E' = h\nu_0\left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right) = mc^2\left(1 + \frac{a\Delta x}{c^2}\right) \quad \left(\text{または } mc^2 + ma\Delta x\right)$$
問4の式 $E' = mc^2 + ma\Delta x$ を見た瞬間、「あ!$ma\Delta x$ は重力場の位置エネルギー $mgh$ とそっくりだから、力の大きさは $ma$ だ!」とすぐ分かりますね。
ここで一番気をつけたいのが「向きの理由づけ」です!
結晶(前方:$x$ が大きい側)にある質量 $m$ が放出したエネルギーが、後方($x$ が $\Delta x$ だけ小さい検出器の位置)に達したときに $mc^2 + ma\Delta x$ として観測されるということは、「前方(結晶の位置、$x$軸正の側)の方が、後方(検出器の位置、$x$軸負の側)よりも $ma\Delta x$ だけ位置エネルギーが高い!」ということです。物体は「位置エネルギーが高い方から低い方へ」力を受けるので、力の向きは$x$軸の負の向きになります!
【Step 1】台車上の位置と位置エネルギーの高低関係を整理する
問4の結果より、結晶の位置で質量減少分 $m$ がもっていたエネルギーは、それより後方($x$ 軸負の向き)に $\Delta x$ だけ離れた検出器の位置において、
$$E' = mc^2 + ma\Delta x$$
のエネルギーをもつガンマ線光子として観測されます。
台車上の観測者から見てエネルギーが保存していると解釈すると、これは
・検出器の場所(後方)での質量 $m$ の静止エネルギー $mc^2$ に対し、
・それより前方($x$ 軸正の向きに距離 $\Delta x$ だけ進んだ結晶の位置)にある質量 $m$ は、$+ma\Delta x$ だけ高い位置エネルギー $U(\Delta x) = ma\Delta x$ をもっていた(だからこそ、前方で放出された光が後方の検出器に届いたとき、その位置エネルギーの差 $+ma\Delta x$ の分だけ余分にエネルギーをもつ光として観測された)
と解釈できます。
(あるいは逆に、結晶の位置から後方へ $\Delta x$ だけ進む間にガンマ線がこの力から $+ma\Delta x$ の正の仕事をされてエネルギーが $mc^2$ から $mc^2 + ma\Delta x$ に増えた、と考えても全く同じです!)
【Step 2】位置エネルギーから受ける力の向きと大きさを求める
台車上の座標 $x$($x$ 軸正の向き)が増えるほど位置エネルギーが $U(x) = max$ のように増加するため、質量 $m$ が位置エネルギーから受ける力 $F$ は、位置エネルギーが減少する向き($-\dfrac{dU}{dx}$)、すなわち$x$ 軸の負の向きであり、その大きさは $$|F| = \frac{\Delta U}{\Delta x} = \frac{ma\Delta x}{\Delta x} = ma$$ となります。
【Step 1】問1〜問5のストーリーが何を示したのかを振り返る
問1〜問5の流れを1つずつ繋げると、驚くべき物理的真理が浮かび上がります!
1. 質量 $m$ とはエネルギー $mc^2$ である(問1〜問3):
粒子や光子の波動性と粒子性($P = \dfrac{h}{\lambda}, E = h\nu$)と運動量・エネルギー保存則から、物体の質量変化 $m$ は静止エネルギー $E_0 = mc^2$ に対応していることが示された(つまり、質量 $m$ とは物体が内部に蓄えている静止エネルギー $\dfrac{E_0}{c^2}$ そのものである)。
2. 加速系では時間の遅れとドップラー効果により位置エネルギー勾配が生じる(問4):
加速度 $\vec{a}$ で加速する系(台車)の上では、光が距離 $\Delta x$ を伝わる間に観測者の速度が変化するため、ドップラー効果によってエネルギー $mc^2$ が位置 $\Delta x$ に依存して $\Delta E = ma\Delta x$ だけ変化する(位置エネルギーとして振る舞う)。
3. 慣性力 $-m\vec{a}$ の正体(問5・問6):
ニュートン力学では「なぜ加速度 $\vec{a}$ の系で質量 $m$ に比例した慣性力 $-m\vec{a}$ がはたらくのか(また、なぜ静止エネルギーとしての質量 $m$ と、運動方程式の比例定数=慣性質量としての $m$ が一致するのか)」は説明されない前提だった。
しかし問1〜問5の結果は、「質量 $m$ がもつ静止エネルギー $mc^2$ が、加速系においてはドップラー効果(空間と時間の関係)によって位置 $\Delta x$ に比例した位置エネルギー $ma\Delta x$ を生み出し、その位置エネルギーの空間的な傾き(勾配)として必然的に現れる力が慣性力(向きが $-\vec{a}$、大きさが $ma$)である」ということを物語っています!
したがって,ニュートン力学では由来が説明されなかった慣性力($-m\vec{a}$)とは,質量 $m$ がもつ静止エネルギー $mc^2$ が加速系においてドップラー効果により空間的な位置エネルギーの勾配(傾き)$ma\Delta x$ をもつようになり,その位置エネルギーを減少させる向き(加速度 $\vec{a}$ と逆向き)に生じる大きさ $ma$ の力として必然的に導かれるものであるということを物語っている。(また,エネルギーとしての質量と,速度変化への抵抗の度合いを表す慣性質量とが本質的に同一であることも示している。)
2025年度 慈恵医大・物理を解き切ったみなさん、本当にお疲れ様でした!
今年の慈恵医大の物理は、問題数こそ大問2題・全11問とコンパクトでしたが、「公式の丸暗記ではなく、法則の成り立ち(なぜ $PV^\gamma$ が一定なのか、なぜそれが減ると第2種永久機関になるのか、なぜ $E=mc^2$ とドップラー効果から慣性力 $-m\vec{a}$ が出てくるのか)を自分の言葉で説明できるか」を問う、最高峰の入試問題でした。
合格ラインの目安は全体の60〜65%(大問1の問1〜問4、大問2の問1〜問5を確実に正解し、論述の問5・問6で部分点を積み上げること)です。この解説ページのステップをもう一度自分の手で再現できるように復習すれば、どんな難関医学部の物理も絶対に突破できますよ!応援しています!
過去問演習で時間を溶かしていませんか?
合格の鍵は「全科目の時間配分(バランス調整)」にあります。
私立医学部の入試は、1科目だけできても受かりません。「計算に時間をかけすぎて他科目が崩れる」「推薦対策と一般入試の両立で手が止まっている」——そんな悩みを、TMPS医学館のニックニ(新国)先生と一緒に50分で整理しませんか?
【出典・引用に関する表記】本ページで扱う入試問題の出典は各大学(東京慈恵会医科大学 2025年度 入試問題)に帰属します。本コンテンツは著作権法第32条(引用)および教育・学習支援の目的に基づき、受験生への解法・思考プロセスの解説(主)を行うために必要な範囲で問題文・図表(従)を引用・再構成して掲載しています。解答・解説および図解の著作権はTMPS医学館に帰属します。